2024年10月16日水曜日

時間感覚を伸ばす

 昨日、「ゆっくリズム」で豊かな人生を送ることで「時間感覚を伸ばす」ことができると書きました。ところが、『源氏物語』などの古典を読むことで、「一世紀に及ばない時間の感覚を想像力によって、人は過去に向かって延長することが可能」(注)だというのです。「つまり、大昔に書かれた小説や、近代の作家が遠い過去を再現してくれる作品を通して、私たちは自分の短い生命を内面的に延長できる」のです。
 このことに関して、「人間は考える葦である」と言ったパスカルが感動的な言葉を残しています。
 「私が私の尊厳を求めなければならないのは、空間からではなく、私の考えの規整からである。私は多くの土地を所有したところで、優ることにならないだろう。空間によっては、宇宙は私をつつみ、一つの点のようにのみこむ。考えることによって、私が宇宙をつつむ。(『パンセ』、No.348)です。「考えることによって、私が宇宙をつつむ」とは、なんという壮大な言葉でしょう。これこそ、「時間感覚を伸ばす」究極の方法論です。「無限なる時間と空間を生きる」秘訣です。

 (注)私たちの人生は過ぎてしまえば、あっと思うほど短いものである。七十歳の老翁となった私などには、特にその感が深い。しかし、その一世紀に及ばない時間の感覚を想像力によって、人は過去に向かって延長することが可能である。
 たとえば『源氏物語』を読むことによって、私たちは藤原道長の頃の宮廷人の日常生活を、あたかも自分自身の過去の記憶であるかのように甦らすことができる。あるいはまた、ウォルター・ペイターの『快楽主義者マリウス』を飜すことで、ローマ末期を生き直すことができる。
 つまり、大昔に書かれた小説や、近代の作家が遠い過去を再現してくれる作品を通して、私たちは自分の短い生命を内面的に延長できるわけである。
 が、勿論、そうしたことを可能とするのは、フィクションには限らない。平安朝盛期を生きるためには、『源氏物語』の他に、その時代の支配者だった道長の日記『御堂関白記』や、挿話のスケッチ集である『枕草子』や回想記『かげろふの日記』などの事実を記したものが、大いに有意義である。(『読書のよろこび』、中村真一郎著、新潮社、1991年、p88〜89)

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