今や、既定路線のような安保条約だが、多くの反対を押し切り、強行採決によって改定された事実は忘れてはならないと思う。そして次に大事なのが、アジアなど近隣諸国の人々の目であろう。その意味でも、写真家として世界を歩きながら聞いた声のは貴重である。「アジアの人民も、アラブの人民も反対して」いるという。
だからこそ、「日本国の視点としては、核大国と共同するのではなく、むしろ、非核・非同盟・中立の諸国、とくにアジア諸国と共同歩調をとるべきである。そうすれば、過去の侵略戦争へのつぐないと合わせて、アジアにおける日本の地位と信頼は高まるであろう、二一世紀はアジアの時代でもある」(『日本をどう変えていくのか・「改革」の時代を考える』、渡辺洋三著、岩波新書、p244)。
一層
露骨な攻守軍事同盟の性格をもつ改定は、絶対に反対です。改定の中には、核武装のことも、徴兵制度のことも決められるにちがいありません。戦争への道はもうこりごりです。
安保条約改定が手なおしなどというものではなく、出なおしで新しいよそおいをもった戦争屋さんの祝出征のようなものだけに、
アジアの人民も、アラブの人民も反対しております。現に、現行の安保条約にすら、わたしが一昨年、昨年と歩いたアラブ諸国(エジプト、シリア、レバノン、イラク等)アジア諸国(インド共和国、蒙古人民共和国、中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国)の人々は、
アメリカに組みして戦争をおこすものではないか、と反対しておりました。戦争への憤りと、平和への願いからです。ましてや、現在、平和共存が国際的な話題となっているのです。
きな臭い安保条約改定は、平和にとってはいささかもブラスになるものではありません。むしろもっと謙虚にアジアと世界の平和の声に、日本もアメリカも耳をかたむけるべき時がきたと考えます。
むかし、ヒットラーは、嘘も何万べんもいうと真実になるという哲学をもって人民にのぞんでおりました。当時ヒットラーと手をとりあった岸さんにも、この哲学があるようです。
だがこの嘘も徐々にですが国民の前に見えて来ております。ごく一部の
戦争によって利益を得る人以外は、平和をのぞまない人はおりません。見えないために政府の宣伝を信じている人々もまだ多いことでしょう。政府の考えをあからさまに見せることによって、もっと多くの反対のカがかたまり、勤くことでしょう。強心臓の持ち主である自民党の人々の中にも、あまりにも露骨な戦争への条約改定に疑問と不安を持つ人も出てきているようです。
身内の中にさえも反対があり、まして国民の中には日一日と反対が多くなっているのに「必らず行う」というのは、どこからか至上命令があり、民の声に耳をかたむけないことです。むかしから道理が勝ってきております、やがてもっと無理がひっこむことになります。いや、
無理をひっこめさせることこそが、平和への道です。(田村茂[写真家]著「私はこう思う・無理を通すな」『世界』、1959年11月号、岩波書店、p94、強調は引用者による)