2024年10月18日金曜日

夕べの死を間近にひかえて

 著書『読書のよろこび』(中村真一郎著、新潮社、1991年)を再読し、老齢を自覚した著者の”生きている数少ない愉しみのひとつ”を知りました。「夕べの死を間近にひかえて、老年の朝(あした)に新しい道を聞き知るのも、生きている数少ない愉しみのひとつと言うべきだろうか」(p99)というのです。
 その例として、「新しい翻訳や、それに附せられた注釈のたぐいは、旧来の私の知識からの類推を持ってしては、想像もつかないほど遠くまで進んでいる」(p98)ので、そうした新しいものに触れると「時々、今まで自分が何を読んでいたのか、と驚かされることになる」そうです。そうした新鮮な驚きが、著者にとっての愉しみのひとつなのでしょう。
 ここで大切なことは、驚きや感動を記録しておくことです。そうして、驚きや感動といった愉しみを一回きりのものに終わらせないことです。こうして書いていて気づいたことですが、驚きや感動を記録する過程は、驚きや感動をじっくりと味わえる過程でもあったのです。
 著者の「数少ない愉しみのひとつ」を知ったとき、咄嗟に思えたことは、「愉しむだけでもいいんだ(そこから新たに創造をしなくても)」ということでした。それで心が一瞬軽くなったのです。その辺の心の動きをどう考えたらいいのかは、今後の課題になりそうです。

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