2022年8月19日金曜日

負の感情を一句一句に変換していく

 分かち合えば、喜びは倍加し、悲しみは半減するという。「心を病むウクライナの子供たち」では、爆撃のショックからか、絵を描けなくなってしまった少年が、作家のオリガ・ホメンコさんのアドバイスで再び絵筆を取るようになった話を紹介した。そこでオリガ・ホメンコさんは「出したいものを全部出せば、自分も軽くなる。苦しみは、人と分かち合えばその分軽くなる」と語っていた。
 ちょうど朝日新聞コラム(2022年8月19日)「折々のことば:2472 鷲田清一」に、同じような言葉が紹介されていた。「無心で手を使うこと、何らかの方法で心を吐き出すこと、自分の悲しみを誰かと共有すること」(夏井いつきの元同僚)、と。そしてその解説で、俳句も「心を吐き出す」一つの方法であることを教えてくれている。それにしても、俳句は「負の感情を小さく千切っては一句一句に変換していく」とはよく言ったものである。
 ここで「昇華」という言葉を思い出した。辞書には、「情念などがより純粋な,より高度な状態に高められること、とあり、「人間の苦悩が硬質な詩的文体に昇華された」という例文があった。「負の感情を小さく千切っては一句一句に変換していく」ことで、「人間の苦悩が硬質な詩的文体に昇華される」ということであろう。
 中学の国語教師をしている頃、父を亡くし悲嘆に溺れそうになっている自分を見た年長の同僚が、親しい人の死を受け容(い)れてゆく方法を教えてくれたと、俳人は言う。増殖する「負の感情を小さく千切っては一句一句に変換していく」俳句も、「複雑骨折」した心を右から左から支えるネジのようなものなのか。(『瓢箪から人生』から)

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