現代社会には、不安などさまざまな心の病が存在している。私自身、震災の時に息子の消息がわかるまで、不安で押しつぶされそうになったことがあった。 幸いにも職場で元気で働いていることがわかってから、徐々に心の具合も良くなってた。その時のことを思うと、消息がわからないまま現在に至っている人たちの心のうちを想像すると、その後どうしたのだろうか、と思ってしまう。
いずれにしても、不安といったものは、言葉で持ってカタチにすることで癒やされるという。精神科医の春日武彦さんが、自らの体験を交えながら、そう解説してあるのを見つけた。雑誌『暮しの手帖』(2021年11月号)の「あの人の本棚より」で『島尾敏雄作品集 第5巻』を紹介した文章がそれだ。「漠然とした不安が言葉となり腹に落ちることによって、解毒される」といった表現は、さすが精神科医だと思った。
僕は成育環境、特に母親へのねじれた感情が原因で、慢性的な不安を抱えて生きています。このマンションだって、リノベーションすることで家族の思い出を上書きし、不安を軽減しようとしたんだから、根が深い。特に学生の頃は、しんどくてしょうがなかっだの。悩んだ末に、いろんな本から不安の描写を探して、ノートに書き出してみました。そのときに一番多く引いたのが、高尾敏雄の作品集です。短編を集めた5巻が特に良くて、「捜妻記」なんて作品は実に心にしみる。一緒にいたはずの奥さんといつのまにかはぐれて、捜し回るうちに見慣れた風景が歪み、とんでもないものが見えてくる。シュールな展開が真に追っていて、著者は実際にこういう不安を体験したんだろうと思いました。小手先の技術ではない、言葉に対する誠実さが伝わる描写です。漠然とした不安が言葉となり腹に落ちることによって、解毒されるというのかな……。間違いなく、あの頃の僕を救った一冊ですね。(『暮しの手帖』、2021年11月号、p89)
0 件のコメント:
コメントを投稿