2024年5月10日金曜日

ニーチェによる理想的な人間像

 カントは、著書に『人間学』があるように、一般論としての人間を研究しました。それに対してニーチェは、自分という個としての具体的な人間を研究したようです。例えば木原武一氏は、ニーチェの言葉「人間の生涯は一つの鏡。/その中で自分(本文は傍点)を見きわめること、/これこそ第一のこと、/われら努めてこのことをなさん!!!」を紹介し、「この言葉のなかにニーチェの生涯の関心事が要約されていると言ってもいいだろう。その後、彼は毎年のように自伝を書き続けた。精神が錯乱する数ヵ月前に書きあげた『この人を見よ』も自伝にほかならない。ニーチェの著作活動は自伝にはじまり、自伝に終ったのである」(『哲学からのメッセージ』、木原武一著、新潮社、1987年、p74)と書いています。ニーチェにとての哲学対象は彼自身だったのです。そうして創り上げた理想的な人間像が「超人」という概念です。この理想的な人間像は、木原武一氏によれば、次に紹介したように、「あらゆる虚妄や束縛から解放され、個性を開花し、自分自身を完全に制御できる人間」であり、「何よりも自己を律する力」を持った人間です。

  ニーチェのいう「超人der Ubermensc」を端的に説明するのはむずかしい。ニーチェ自身、明確な定義を下していないからである。彼はさまざまな文脈のなかで「超人」について語っているが、それらを要約すれば、あらゆる虚妄や束縛から解放され、個性を開花し、自分自身を完全に制御できる人間、とでも言えようか。それは普通の人間にとって、現在の自分自身を超えた高所にある人間であって、「超人」の「超」、der Ubermenber(上に、あるいは、超えて、の意)はこのことを指している。「超人」といっても、アメリカ映画に登場するスーパーマンのように地球を逆回転させるといった超能力の持主ではない。ニーチェのいう「超人」のもつ力は、何よりも自己を律する力である。(『人生に効く漱石の言葉』、木原武一著、新潮社、2009年、p165)

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