憲法九条に関しては、「戦争放棄に関する第九条の規定は、あたらしい政治的感覚を表現しつつサンとしてうつくしい光輝を放っている」と表現していた。憲法九条は、今日のような現実を前にして現実に合わなくなったという批判もあるがその逆で、「うつくしい光輝を放っている」からこそ、闇にも見える現実を照らし出し、出口を指し示してくれていると言えるだろう。
終戦の時に締結された降伏文書に基づいて一切の軍隊を解散し、一切の軍事的施設を撤去した日本は、あたかも凶悪な猛獣がキバを抜かれ、ツメをもぎ取られてしまった姿に似ている。しかしながら平和的文化国家として再生すべく、新憲法の中に戦争の放棄を宣言した現在および将来の日本は、そのような無力化せしめられた猛獣のみじめな姿を連想せしめるものではなくて、真に自発的な立場から、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」する国家にならねばならぬであろう。
百三条から成る新憲法の全規定の中で、戦争放棄に関する第九条の規定は、あたらしい政治的感覚を表現しつつサンとしてうつくしい光輝を放っている。今後における国際政治の局面がどのように目まぐるしく変化し、どのような暗たんたる光景を展開する場合があるにもせよ、新憲法が要請するところの徹底した平和的態度を堅持することこそは、わが国のとるべき唯一の正しい態度であり、多年にわたって侵略的軍国主義の国策を実行することによって犯した至大の罪悪を何ほどか償うゆえんであるだろう。新憲法実施の第二年がまさに開始しようとする現在における世界情勢を展望するときわれわれ日本国民がこのような事理を明察する必要があることが痛感される。(恒藤恭著「世界平和と新憲法」『田中耕太郎,恒藤恭,向坂逸郎集』田中耕太郎他著、東京創元社 、1955年p189)
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