2020年3月9日月曜日

世界史の進展を我々の理想の方向に誘導していく

 日本国憲法は、第9条において、戦力も、交戦権も放棄して、どうして日本の安全を確保できるのか、という疑問が出されることがある。そうした疑問に、教科書裁判で著名な歴史学者の家永三郎さんが明確に答えている。一言で言えば、「世界史の進展を我々の理想の方向に誘導していく努力を続けるほかない」ということになるが、全て、含蓄ある言葉で語られており、感動的ですらある。

問 最後の質問になりますが、日本の安全を守るために、証人はどのようにすればよいとお考えになりますか。
答 戦争を体験し、そしていささかその戦争の惨禍について研究してきた研究者として、また、このような悲惨なことを繰り返してはならないと念願する一市民としての見解から申し上げますと、何よりもまず日本は、いかなる特定の国家とも軍事的な結合を持つことなくいかなる国家の政治的な国際戦略とも結びつくこともなく平和憲法の理念に基いて、努めて世界の緊張を緩和することに全力を挙げる、これに勝る日本の安全を確保する方法はないと思います。
(中略)
 軍備をもって自衛戦争をしようと思っても、それは現在の日本の置かれている地理的状況、あるいは国際的環境の中で、到底日本国民の生命を安全にすることはできないのであり、むしろ全面的核戦争を誘発し、あるいはそこまでいかないにしても、日本が外国の攻撃の目標となる。で、むしろ十五年戦争を上回る莫大な被害を出すに終わると思います。したがって、まずそういう状況を出現させないための国際緊張の緩和のために、政府ばかりでなく、民間レベルをも含めた国民の総力による努力が第一に要請されそれをしないでおいて軍備拡充を先行させることは、根本的に憲法の理想にも、また歴史の教訓にも反する、危険な政策であると思います。
 しかしながら、もし万一、何らかの歴史的状況の中で、外国軍隊の不法な侵入を受けた場合にはどうするか、ということを考えてみますと、私は、そういう場合でも、せいぜい非暴力不服従の運動によってこれを阻止し、世界の世論に訴えて、一日も早く外国侵略軍の撤退を求めるということが、最善であって、そこで武力抵抗、特に常備軍による抵抗を行なえば、先程から繰り返して申しますように、むしろ友軍によって殺される比率が多く、あるいは逆に、外国の全面戦争の中に巻き込まれて、全く日本全土が人間の住み得ない荒廃地となる危険さえはらんでおりますので、私は、どこまでも武力によらない抵抗によってのみ日本の安全を確保し、そしてこの世界史の進展を我々の理想の方向に誘導していく努力を続けるほかない、そのように考えております。(『家永三郎憲法裁判証言集』、家永三郎著、中央大学出版部、1983、p123~124、強調は橋本)

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