解説されていたのは、『古今和歌集』の歌「梅が香を袖にうつしてとどめてば春は過ぐとも形見ならまし」の”書”でした。まず、
第3句が「ととめては」ではなく「とめたらは」という具合に、一般に流布する歌形とは異なるうえに、「とめたらは」の「は」がぬけおちて「とめたら」になってしまっています。(『ひらがなの美学』、p5)
なぜ、「は」がぬけおちているかを考察した結果、3行目行頭の”はる”の「は」は、ぬけおちた「は」を兼ねた”二重化”された「は」だというのです。
そう考えて調べていくと、同様の例が他にいくつも見つかりました。また前の字の最終筆と後の字の第1筆が連続する筆画の二重化は、書道界では一般に連綿(つづけ書き)の際の技巧の一種とのみ認識されてきたのですが、これも「掛筆」として概念化できそうです。(『ひらがなの美学』、p6)
つまり、歌の「とめたらは」部分が”書”では「とめたら」となっているのは、「は」がぬけおちたのではなく、”書の概念”である「掛筆」に従っていたにすぎない、ということです。一つの概念によって、「一つの”書”の作法が共有されるようになった」と言えるようです。
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