2023年11月22日水曜日

人間中心の経済学

 シューマッハーが現代社会の危機を1970年代に予言していた彼の思想の要点を見てみましょう。
 シューマッハーはいう。近代の思想・科学・技術によって形成された世界は、三つの危機に同時に巻きこまれている、と。第一に、人間の本性は、非人間的な技術と組織の中で、窒息し、衰弱しつつある。第二に、人間の生命を支える生活環境は痛めつけられ、なかば崩壊の徴候を示している。第三に、人間の経済に不可欠な、再生不能な資源、とくに化石燃料資源の枯渇が眼前に迫っている。この根源となったものは、物質至上主義と巨大技術信仰、そして貪欲と嫉妬心にほかならない豊かさの追求である。
 自然との調和、身の丈技術、節欲勤倹の倫理観によって支えられた前時代の文明は、自然の自律的な調整によって永続性を保証されていたが、現今の自然支配と能動的進歩感、独走的技術のもとでは、歯どめとなるものは存しない。際限のない膨張主義は、資源・環境の両面から、自然を暴力的に破壊・汚染する一方、産業人の体質をむしばみ、人間の尊厳・自由そして創造性を抑圧するものとなる。また、企業組織や都市社会においても、集中と肥大化を生み、かえって空洞化や人間疎外を進行させる。(小島慶三著「シューマッハーの人と思想」『スモール・イズ・ビューティフル 人間中心の経済学』、E.F.シューマッハー著、講談社、1986年、p393〜394)
 今読んでも、一つも古さを感じさせないことは驚きに値します。逆に言えば、危機を指摘されながらも、彼の指摘によって有効な対策を取れなかったことを意味します。何十年もの猶予があったにもかかわらず、です。なぜでしょうか。
 私は、彼の思想に弱点があったからではないか、と考えています。その弱点というのが、「どんなに制度や機構を変えてみても、社会の病いを起こす人間の利己主義や飲欲や争い好きを取り除けない」という考えです。社会の危機は、「人間の利己主義や飲欲や争い好き」によって起きているのでもなく「資本の巨大な力」によるという観点が抜けていることです。「資本の巨大な力」に対抗できるだけの「民主的権力」というものが誕生して初めて、シューマッハーのいう社会的危機は解決されるのです。私はそう思います。
 どんなに制度や機構を変えてみても、社会の病いを起こす人間の利己主義や飲欲や争い好きを取り除けないのは明らかである。できることといえば、このような弱点を助長しないような環境を作りだすことである。制度・機構の力で人びとに原則を守らせることはできない。できるのは、望めば守れるような原則にもとづいて、社会秩序を打ちたてることである。(『スモール・イズ・ビューティフル』、E.F.シューマッハー著、講談社、1986年、p341)

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