これまでも、大脳の健康、活性化が寿命に影響するであろうことを、芸術家に長寿者が多いことを例に書いてきた。このことと関係ありそうな話として、「人間は頭からダメになる」のではないかという考えを知った。もしそうなら、何よりも脳の健康を考えていけば、やはり長寿につながるのではないか、ということになる。その話というのが次である。
『ガリバー旅行記』の作者スウィフトは晩年、現在でいう認知症のような状態に陥った。その始まりのころ、老木を眺めていて、「梢から枯れていく」と言ったそうだ。そのような人間は頭からダメになる。哲学者のカントも同じようなことを述べているから、老いがすすむと、頭脳が日々、枯木状に干からびていくような気がするのだろうか。俗に「頭が固くなる」というのは、それとなく干からびの前兆を伝えているのかもしれない。(池内紀著「コブ老人」『一枚の絵』2012年2月、P33)脳の健康に関係ありそうな、もう一つの話として「南画は絵の精進と共に自己の精神の境地を澄明(ちょうめい)にしていこうとするのである」(村田喜代子著「こんな天使がおりました 水越松南の南画世界」『一枚の絵』2012年3月、P45)がある。この言葉は、頭の使い方に二種類あることを教えてくれている。
つまり、絵をどう描くか、とか、文章の書き方、あるいは科学的思考といった外的対象に向かっていく方法で、この世の多くはこの範疇に属する。しかし、脳のより良い生理的状態を目指す、内的対象に向かう「自己の精神の境地を澄明(ちょうめい)にしていこうとする」方法論もある。だが、ひょっとすると、こちらは東洋的なもので、西洋にはなかったか、あまり発達することがなかったのではないだろうか。これは単なる感であり思いつきに過ぎない。いずれにしても、健全な脳の発達と健康には、両方の頭を上手に使うことではないだろうか。
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