2022年12月31日土曜日

武者小路実篤の憲法草案

 武者小路実篤が「私の憲法草案――世界平和のために――」を書いている。世界平和のためには、個人の自由、生活の安定、人間の尊重を保障していくことが重要だと言っているわけだが、個人の自由や個人の尊重に対して、生活の安定というスローガンはあまり叫ばれなかったのではないか。最低生活の保障など言われてきたが、それではダメだ。「生活の安定」という言葉の響きがいい。
 ことわざに「衣食足りて他人の笑顔」というのがある。生活が安定し、生活が満ち足りていれば、戦争する気も起きてこないであろう。それでも戦争を求めるとしたら、軍事産業に関わる人くらいに違いない。
 日本の独立と平和の為にはどうしたらいいか、冷静に厳格に考えてものを言ってほしいと思うのである。
 僕は世界が本当に平和になる為には、個人の自由と、生活の安定が必要だと思う。何処の国も本当の意味で個人の自由を認め、それ等の人が正当に働けば生活が安定出来るようになれば、我等は何処へ行っても安心して生活が出来るわけだ。又強制されることがなければ何処の国に日本がとられても、結局同じことになり、とるだけ損になる。
 世界中の政府は人々の自由と幸福を助けるが、奪わない。結局何処の国の政治も同一で、国をとっても、とられても国民の生活には少しも変化がない。そう言う時になって始めてこの世から戦争はなくなるのだと思っている。
 国民は世界中何処へ行っても、同じように生活が出来る。同じく一日二三時間働けば、生活の安定が出来自由がたのしめる事になれば、戦争する必要はない。人間の方が主である。個人は何処に行っても自分の値打だけの生活は出来る。
 世界中の政府はあってもなきが如く、国民は政府の圧迫は少しも感じない。何処の政府も人民を同じように尊重し、生活の安定と自由を与えてくれ、いやなことはしないですむ。その代り、一人前の仕事をする。それも今に世界中の人は殆んど遊んでくらせる時がくる、労働はスポーツのようにだのしく果せる。そうなれば戦争の必要はなくなる。(武者小路実篤「私の憲法草案――世界平和のために――」『読本憲法の100年 第3巻 憲法の再生』、作品社編集部編、作品社)

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