2022年9月16日金曜日

蔑称”Gook!”:汚いもの・東洋人

 詩集『ヒロシマ連祷』(石川逸子著、土曜美術社、1982年)のことは、「祈りの詩集『ヒロシマ連祷』」に書いたが、もっと石川逸子さんの本を読んでみたくなって、評論<石川逸子著「国貞きみの詩世界」>が載っている『くにさだきみ詩選集一三〇篇』(くにさだ きみ著、コールサック社、2010年)見つけることができた。詩人「くにさだきみ」の発見である。
 詩集の中に、「知らなかった/Gookということばがあることを」で始まる「Gook」という詩があった。私も知らなかったので、辞書で調べてみた。なんと、二つの意味があって、「1 、汚いもの。2 、⦅米・俗・卑⦆ 東洋人」と、われわれ東洋人は、汚いものと同列だったのだ。
 もっと詳しい英中和辞典でも調べてみた。ここには、{侮蔑的}という項目があって、「あほう、いなかっぺ、土百姓、しゃくにさわるやつ」とあった。
Gook
知らなかった
Gook(グック)ということばのあることを

わたしのうちの
どんな辞典にも載ってはいない
米兵たちのスラング
Gook!
ペッ!
と唾を吐き捨てる気分で

日本人にもベトナム人にも
浴びせかけてきた蔑称
Gookということば

太平洋戦争が終わって半世紀
ベトナム戦争が終わって四半世紀
昨日はじめて
わたしは出会った
――人間よりも劣ったいきもの――
Gookというものの標本に
南京錠が外されると
ホルマリンの匂いが鼻をつく
ホーチミン市
ツウヅウ病院標本室
頭部の融合した二重体児
無脳症の嬰児やら裂唇の女児
ふわっと浮かぶ顔面に
目がひとつだけあいていて口も持たない
単眼症男児のサンプル瓶
どのガラス瓶にも名まえはなくて
出生年月日と症名だけの
小さなラベルが貼られている

長崎国際文化会館
原爆資料センターに展示された
挺身女子学徒隊の制服にも
名前はなかった
溶けたガラスに付着した人間の手にも
急性原爆症で
病理解剖された卵巣の瓶にも
簡単な説明があるだけで
名前はなかった 
その街がGookではなく
白人の街なら
その国がベトナムではなく日本ではなく
ヨーロッパならば
(後略)

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