2021年1月21日木曜日

多様性と個の尊重

 朝日新聞夕刊「美の履歴書」の681は、阿部合成作「見送る人々」だった。日の 丸を掲げていることから、戦時中のことであろうと想像できる。「国家総動員」とか、「一億総特攻」など、「みんなが同じ方向を見る」ことを強要されたからだ。そうした流れの中で「一億総活躍社会」などと叫ばれるようになってきた。だからこそ、青森県立美術館・池田亨美術企画課長さんの「みんなが同じ方向を見るなか、それでいいのかと問いかけている」という指摘は、現実的な意味を持って、我々に迫ってくる。
 自然界を見ると豊かな「多様性」に満ちている。水族館に行くとよくわかる。人間社会も同じで、多様性に満ちている。それが本来の姿で、そのことを理解すると、他(個)の尊重も理解され、いろんな方向がある(みんなが同じ方向など不自然である)ことも理解されるに違いない。

 顔、顔、顔。画面を、二十数人の老若男女が埋め尽くす。顔以外の要素といえば、日の丸の旗とのぼりぐらい。
 フレームの中に叫ぶ顔、泣く顔、うつろな顔をひしめかせ、顔にだけスポットライトを当てるような表現で、出征兵士を見送る人々の抑えがたい感情を描いている。ボスやブリューゲルの群衆表現や、民衆を描いたメキシコの壁画との関連も指摘されるが、エッジのきいた造形、髪や指先までを克明に描く細部の力が加わり、戦後のルポルタージュ絵画を先取りするような、ひりひりとした切迫感、新しさがある。
 のぼりの下で、こちらを向く男性は自画像。青森県立美術館の池田亨・美術企画課長は「みんなが同じ方向を見るなか、それでいいのかと問いかけている」点に魅力があると話す。(朝日新聞夕刊、2021年1月19日)

青森県立美術館「見送る人々」


 

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