ドラマ『刑事フォイル』の舞台は、第二次世界大戦さなかのイギリス南部、ドーバー海峡に面した美しい町ヘイスティングズ。フォイルは、国家の大事を前に政府で働くことを希望するが却下され、ヘイスティングスの警察署に警視正として赴任することを命じられる。このときのフォイルと上司のやりとりの中で、上司がフォイルに向かって、
「国民の半分も人を殺す訓練を受けているんだぞ」だから、小さな町ヘイスティングズでも殺人事件や犯罪が絶えない。その上、署員もどんどん軍隊に採られてしまって少なくなってしまっているので、優秀な刑事をやめさせるわけにはいかない。
と言い、フォイルの希望は却下されてしまう。
「国民の半分も、軍人として人を殺す訓練を受けている」という、ごくごく当たり前のことが、何故か、新鮮に聞こえた。小林よしのりさんによれば、「国の防衛にあたることは本来、崇高な職務です。守らなければ国は滅びる」(2015年9月2日、朝日新聞)という。国の防衛のためには、人を殺すことがあっても、その過程で、殺されるようなことがあってもいい、という思想が根強くある。
国防のためには、人を殺す訓練が必要だし、「殺されることがあっても、それは名誉の死として尊ばれる」というこの思想こそ、上野千鶴子さんが言うところの<「命より大事な価値がある」っていうイデオロギー>(『生き延びるための思想』、上野千鶴子著、p234)である。それに対して、「命より大事な価値などない」という思想がクローズアップされる必要がある。
それにしても、「だれの子どもも、ころさせない」は未だかつてないほどの名言である。国防の思想には、敵国の人命など眼中にない。同時に、国あっての国民、国が滅びてしまったら国民の命も守れない、という論理が貫かれている。そこに国民主権はないのだ。憲法が貫かれていないのだ。しかし、敵国の人命も、自国民の命と主権も守れる「だれの子どもも、ころさせない」思想に立って初めて国も守れるということである。
戦争体験者の証言に、「今でもいつ戦争になるか、そんな気がしますからね。よっぽど外交をしっかりやらないと。国民がしっかりして、みんなと仲良くするよう努力しなくちゃいけないと思いますね」(吉岡政光『朝日新聞、2020年12月8日』)。というのがあったが、敵国などつくらず、朝鮮とも、中国とも仲良くすることこそ、「だれの子どもも、ころさせない」思想そのものである。
0 件のコメント:
コメントを投稿