美術史に革命をもたらしたと言われるフランシスコ・デ・ゴヤについて、谷口江里也さんによる紹介文がある。世界史の流れについても理解が深まって興味深い内容だった。特に、「権力構造の世界史的な大転換」という一言にインパクトがあった。そして、日本国憲法も、そうした世界史の流れを受け継いでいることに”一層の誇り”を持つことができた。なお、強調は引用者による。
近代という時代は、象徴的には、産業革命とフランス革命という、歴史的な大転換を契機に始まった。それによって産業や経済の仕組も、社会や権力の構造も一変した。それでは視覚表現の世界に、それに匹敵するような革命をもたらした表現者はといえば、それはフランシスコ・デ・ゴヤである。
ゴヤは油絵と違って版画という、同じ画像を多くの人々が手にすることができる、現代のマスメディアにつながる幻想共有媒体を駆使して、それまでの長い絵画の歴史のなかで描かれなかった世界、描かれようのなかった世界を描き、表現対象と表現領域と表現方法を飛躍的に拡大し深化させて、視覚表現の世界に革命を起こした天才だ。(谷口江里也著『視覚表現史に革命を起こしたフランシスコ・デ・ゴヤの第一版画集 ロス・カプリチョス』、未知社、2016年、p1)
なぜなら、
歴史的に見れば、西欧において絵画は長い間、王侯貴族や教会や富豪などの、広い意味での権力者が画家に発注することによって描かれてきた。したがって描かれる画題は、肖像画であれ、宗教画であれ、戦勝の記念などとして描かれた歴史画であれ、基本的には権力者の側の視点に寄りそうものであり、描かれ方も、権力を美化したり権威付けを助けるものであることが重視されてきた。
しかしゴヤは、隣国のフランスで、民衆が権力を掌握し、議会の議決によって遂には王を処刑するという、権力構造の世界史的な大転換が起きた、まさにその時に、時代の風を受けるようにして、新たな視覚表現領域に果敢に挑戦し、独走し、孤立無援の闘いを繰り広げた結果、一一百年の時空さえも駆け抜けて、現代が抱える課題にまでたどり着いた。(同上、p1〜2)
フランス革命の影響を受けて、
革命を経て社会は動乱の時代に入り、体制も価値観も目まぐるしく変化するなかでゴヤは、宮廷画家という、本来ならば画家という職業の頂点であるはずの地位に危機感を抱くとともに、これからは民衆が相手だとばかりに、従来の関係のなかでは描き得なかった画題を追求し始め、それを『ロス・カプリチョス』と題する版画集に結実させて、一七九九年、自らそれを出版した。(同上、p2)
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