「ええ、常々、儒家の口にする、仁、義、礼、智(ち)、信、忠、孝、悌(てい)の八徳には、大事なものが欠けていると思っておりました」
「欠けている?」
「欠けているというより、あるいは、その上に立つものがあると言えばよいかとも思います」
「それが慈だと」
「はい、この慈こそが、世にもっとも必要なものと思えます。生きとし生けるものにあまねく慈が降りそそぎ、あらゆる者の心から慈が湧き出れば、世はこの上なく太平になりましょう。小糸殿には、この慈の心が豊かにあったのだと思われます」
五常八徳の上に立って世をあまねく照らすべきものが慈の心だという。(沢木耕太郎著『暦のしずく:34 第三章・夜講〈七〉』、朝日新聞、2023年6月10日)
つまり、「世をあまねく照らすべきものが慈の心」で、「あまねく慈が降りそそぎ、あらゆる者の心から慈が湧き出れば、世はこの上なく太平に」なるだろうというのだ。なんとも素晴らしい。戦争の指導者にも、「あまねく慈が降り」そそいでもらいたいものである。

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