2021年5月1日土曜日

戦死やあわれ/兵隊の死ぬるやあわれ

 朝日新聞コラム「「天声人語」(2021年4月24日)で、詩人竹内浩三のことを知った。「代表作『骨のうたう』では、前線で命を落とした自分が遺骨となって帰国する。〈帰っては きましたけれど 故国の人のよそよそしさや〉。予言めく一節そのままに詩人は終戦の年の4月、フィリピン・ルソン島で命を落とす。映画を撮る夢はかなわなかった」(「天声人語」)。
 「天声人語」では、詩の一部分の紹介だったので、青空文庫で紹介されていた詩の全部を読んでみた。「国のため/大君のため/死んでしまうや」といった表現は、ある程度予想できても、「白い箱にて/故国をながめる/音もなく/なにもない/骨」とか「オレは日本に帰ってきた/帰ってきた/オレの日本に帰ってきた/でもオレには日本が見えない」といった表現にはドキリとした。「白い箱にて故国をながめる」ことを想像していたなんて、あまりではないか!
骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨は聞きたかった
絶大な愛情のひびきを 聞きたかった
それはなかった
どうぞ、安らかにお眠りください。
二度と同じ過ちは繰り返しませんから!
と、こうした無数の骨に手を合わせたい。

骨のうたう(原型)  竹内浩三

戦死やあわれ
兵隊の死ぬるやあわれ
とおい他国で [ひょん](傍点部分)と死ぬるや
だまって だれもいないところで
[ひょん](傍点)と死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
[ひょん](傍点)と消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

苔いじらしや あわれや兵隊の死ぬるや
こらえきれないさびしさや
なかず 咆えず ひたすら 銃を持つ
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や 女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし
がらがらどんどん事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた
骨は チンチン音を立てて粉になった

ああ 戦場やあわれ
故国の風は 骨を吹きとばした
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨は なんにもなしになった(「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」、藤原書店)

日本が見えない 竹内浩三

この空気
この音
オレは日本に帰ってきた
帰ってきた
オレの日本に帰ってきた
でも
オレには日本が見えない
空気がサクレツしていた
軍靴がテントウしていた
その時
オレの目の前で大地がわれた
まっ黒なオレの眼漿(がんしょう)が空間に
とびちった
オレは光素(エーテル)を失って
テントウした

日本よ
オレの国よ
オレにはお前がみえない
一体オレは本当に日本に帰ってきているのか
なんにもみえない
オレの日本はなくなった
オレの日本がみえない

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