2020年11月2日月曜日

アウシユヴィッツ中が・・・・

 不思議な詩だった。人間の姿は謡われていない。それだけに、余計、状況が記憶に残るし、その背後の人々が想像される気がする。それは正に、悪夢のような惨状としか言いようがない。

アウシユヴィッツ中が・・・・ 
タデウシ・シリヴィヤク(ポーランド)

アウシュヴィッツ中が 溢れている
子供用の サンダル
女ものの 上履
紐で編み上げた 編上げ靴
短靴

そして 
ブロックというブロックに
散らばっていた
片方だけのブーツで溢れている

そして
アウシュヴィッツという都市から
靴の魔法使いをおびき出すよう
呪文をかけよ

このアウシュヴィッツという都市から
そして 
われわれのこの不安にみちた悪夢から
目覚ませよ

靴 
タデウシ・シリヴィヤク(ポーランド)


ぼくの父の靴が
戦争から戻ってきた
固い皮はひび割れ
縫目はほどけていた

それで一体 足はどこにあるというの ――
幼かったぼくがきいた
そしてズボソの脚は?
兵隊さんのゲートルとか
腫で蹴る、あの足音は?

だが 靴は
舌を出し
敷居を 跨ごうと
喘ぎ 喘ぎ
血を 砥めずり
沈黙し続けていた(『
現代東欧詩集 世界現代詩文庫15』、かだみちこ/ほか編訳、土曜美術社、p29〜30)

 なお、「アウシユヴィッツ中が・・・・」だけ、引用者が改行と空白を入れた。原文は次の通り

アウシュヴィッツ中が 溢れている
子供用の サンダル
女ものの 上履
紐で編み上げた 編上げ靴
短靴
そして ブロックというブロックに
散らばっていた
片方だけのブーツで溢れている
そしてアウシュヴィッツという都市から靴の魔法
使いをおびき出すよう呪文をかけよ
このアウシュヴィッツという 都市から
そして われわれのこの不安にみちた悪夢から目
覚ませよ

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