建築家の安藤忠雄さんに注目し、彼の著書を読んでいることは「アジアはひとつ、地球はひとつ」にも書いた。『境界を越える 建築は、壮大な夢の実現』(講談社、2012年)にも、ハッと閃いた言葉があった。幸田露伴の『五重塔』を紹介して最後に、主人公の十兵衛が自分の仕事に誇りを持って働いていたように、「それぞれの人が、それぞれの仕事を通じて自分の誇りを他人に伝えていく、それこそが『公的精神』というもので」、「『公』というのは個人の思いから成り立っている」(p 66)という言葉である。
戦前の日本における「公」というのは、そうではなかった。「滅私奉公」こそ美徳とされていた。しかし、『五重塔』は、幸田露伴の1892年(明治25年)の小説である。こんな時代に「『公』というのは個人の思いから成り立っている」というような思想が描かれたことに驚き、幸田露伴という人に興味を持った。
初めはそこまでの考えはなかった。初めは、「公」と「個」の矛盾した関係が見事に統一された関係を見出しただけだった。閃きを拾い上げて初めて、幸田露伴という人そのものにまで興味を抱くことになったのである。それにしても、小説の主人公の「仕事に誇り」という個人の思いと、「公」との関係にまで注目した著者の着眼点も大したものである。
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