2022年2月12日土曜日

日常を言祝(ことほ)ぐ

 2022年2月8日放送のNHK「先人たちの底力 知恵泉」は、「大田南畝 豊かに生きる働き方を!」だった。この放送で、江戸時代後期に「狂歌」が爆発的な社会現象となったことを初めて知った。浮世絵や歌舞伎とともに化政文化を代表する「狂歌」人気は、下級武士である大田南畝の副業から始まった。武士の仕事のかたわら、趣味で始めた「狂歌」が大ブームになり、副業として収入を得るまでになったという。


 大田南畝は、初めは仲間と集まって「狂歌」を楽しんでいたが、やがて、『千載和歌』に習って『万載狂歌』という本にして出版する。ところが、そこで終わらず、今度は、「よきことを/思い出せば/あかつきに/ねられぬ老も/めでたかりけり」といった「狂歌」を集めて『めでた百首夷(えびす)歌』を出版する。これが素晴らしい。前に「臨場感たっぷりの浮世絵」で紹介した月岡芳年の「月百姿」や歌川広重の「名所江戸百景」というシリーズ絵に匹敵する快挙である。日常の全てを、しかも一見暗い、後ろ向きになりがちなことも、決して「めでたい」とは思えないようなことでも、「めでたき・・・」と詠んでしまうことが、なんという独創であろう。 
 しかもこの時代は、「天保の大飢饉」「浅間山の大噴火」などもあって、決して明るい世の中ではなかったらしい。それな日常を「言葉の力」だけで、明るいものにしてしまった。逆に、そんな世の中だったからこそ、せめて言葉だけでも、明るく振る舞ったのかもしれない。
 そういえば、江戸城内の倉庫に保管されていた書類の整理を任された時、着々と単調な作業をこなしながらも、仕事の合間の息抜きだったのか、「五月雨の/日もたけ橋の反古調べ/今日もふる帳/明日もふる帳」などと詠んでいた。





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