読書の方法では、乱読や精読、速読が有名である。しかし、それらに劣らず大切な読書法に、同じ本を繰り返し読む「繰り返し読み」がある。「気に入った一冊の本は人生のいろいろな時期に読み返すべしという、読書について昔からいろいろな人が説いた教え」(萬年甫、『図書』、1982年4月号、p30)である。この「繰りかえして読むということは、筋を追うのとは違って、読む側の脳細胞を微妙に変える」(『知的生活の方法』、渡部 昇一、講談社、p53)という。
ところで、何度も練習を繰りかえすことで、自転車に乗れるようになるのは自明である。このとき、脳細胞の間に無数のシナプス結合が完成する。同じように、繰りかえして読むことで、何らかのシナプス結合が完成するに違いない。それゆえ、書かれていることがあたかも体験したかのように、脳が錯覚するのだろう。あるいは、繰り返し読みの重要さは、ここからきているのかも知れない。
また、<人生に「忘れ得ぬ人々」があるように、読書においても「忘れ得ぬ一冊一冊」がどれほど自分を変え、目の前の霧をぬぐってくれるか>(萬年甫、『図書』、1982年4月号、p33)という感想があるように、「忘れ得ぬほどに読み返したとき、読み込まれた本が力を発揮する」とも言えよう。それだけでなく、「この繰り返しが二十年も続けられて、しかもそれに耐える本や作者にめぐり合ったら、相当に大きな人生の幸福と言って良いのではないだろうか」(『知的生活の方法』、渡部昇一、講談社、p66~67)。「忘れ得ぬ一冊」にめぐり合ったら、それだけでも幸せなことなのである。
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